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モビリティ分野のパイオニア

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モビリティ分野のパイオニア

パデコの創業セクターは交通計画であり、1980年代の創業時から現在までモビリティの分野のユニークな存在であり続けています。パデコがどのようにモビリティ分野でのイニシアティブをとり続けてきたのか、紹介したいと思います。

「ペダルを踏み込む価値」は幾らなのか? 世界銀行 - NMV調査 1995年

パデコの特徴ある業務経験としては、1995年の世界銀行NMV(Non-Motor Vehicle)調査が挙げられます。当時は、途上国でも自動車普及・道路整備が進み、それに伴う交通渋滞が目立つようになった時期です。実際の交通状況を見てみると、一般市民の自転車利用、シクロによるタクシーサービス、動物による牽引(馬車や牛車)運搬、つまり、非駆動機関ベースの車両(NMV)による交通・運輸サービスが引き続き存在していました。また、道路整備は自動車利用に基づく便益(渋滞緩和、所要時間削減など)だけが計測され、NMVのコストや便益が評価されておらず、その結果、自動車専用道路の整備が優先される傾向にありました。


パデコは世界銀行交通部門と一緒に、東南アジア、南アジアの特徴あるNMV運用に関して、車両の初期コスト、運行コスト、運用実態、事業形態などの調査を進め、定量的な評価が出来るような数値データを取り纏め、WBの標準的な道路投資評価プログラムであるHDM-III(2000年以降は「HDM-4」に改訂)に評価モデルとして組み込みました。この結果、道路投資評価において、NMV利用の多い街路や地方道路への投資が正当に評価されるようになりました。

世界銀行やアジア開発銀行、JICA、各途上国政府が整備する都市内道路、都市間道路事業はHDM-4で事業分析することがデファクト・スタンダードになっていますが、この事業分析手法に、末端のモビリティであるNMVが組み込まれ、現在の持続的なモビリティ確保の先鞭となったのは、パデコのこの調査だとも考えられます。



世界銀行のアーカイブにあるNMV調査レポート(1995年)、白黒の写真でスキャンも余り良くないが当時の貴重な資料

日本の経験を世界に繋いだパイオニア~WB有料道路調査、WB都市交通調査

1998年から2001年にかけて、世界銀行(WB)・交通部門、本邦の建設省、運輸省(当時)とともに、日本やアジアのインフラ整備知見を各国で共有し、更なるモビリティ整備を進めるために、当時最先端のインフラ整備状況を横断的に調査する業務を実施しました。1998年から99年に実施された「WB Toll Road Study – Asian Crisis」は、丁度アジア通貨危機の時期に重なり、民間資金を活用した道路整備(色んな言い方はありますが、PPP・PFI、BOT、DBFOによる道路整備など)が次々と頓挫していく中で、どのように持続的に「有料道路」というスキームが形成されるべきなのか、東南アジア、欧州、南米からの専門家を集めた討議を主催しました。

また、2000~01年にかけて、日本の都市鉄道、都市交通の整備スキーム、資金確保策、知見を包括的に解説したのがWB Urban Transport Strategyです。東京、名古屋などの大都市だけではなく、浜松、高松などの中都市の都市交通整備の経緯、政策、資金確保策を詳細に説明しています。また、支払メディアの趨勢、騒音・環境負荷低減策などについても解説しました。

パデコは2020年以降も引き続きこのようなモビリティ、交通インフラ整備に関する提案や事業支援を行っていますが、この2つの調査に代表されるように日本の優れた知見・経験を如何に現地にFitさせるかと言う視点に立って、提案を組み立てています。

交通マスタープランや計画マニュアル策定

モビリティ計画の基本となるのが交通マスタープランです。パデコは様々な地域や都市を対象に交通マスタープラン作りに取り組みました。例えば、80~90年代の大メコン地域(ADB/JICA)、ウルムチ(WB)、2000年代に入ってブカレスト、チェンマイ、コロンボ(JICA/ADB)、コルカタ、アレキパ(IDB)、2010年代に入ってタンザニア物流、マプト、撫州(WB)、吉安(WB)、モンバサ、ナイロビ、ダッカ周辺都市群、2020年代では、インドネシア5都市、大カイロ都市圏、など、世界中に及んでいます。また、JICA技術協力による業務だけではなく、世界銀行、アジア開発銀行、米州開発銀行など海外ドナーからの業務実施経験が積み上がっているのもパデコの特徴です。

マスタープランの作成業務は、パデコのコンサルタントが直接計画作りに携わるものですが、現地政府がその国の基準に従って自身でマスタープランを策定するためのガイドラインやマニュアル作りにも関わります。インド政府住宅都市省・ADBをクライアントとしたインド都市交通戦略業務では、インドの50万~400万人規模の都市を対象としたバスやBRT導入のための中規模都市のための都市交通整備マニュアルを作成しており、現在でも活用されています。

モビリティのラスボス、メトロ整備

色々と議論はあるかもしれませんが、現代社会において究極のモビリティ整備とは「メトロ整備」であると言えます。タクシーやバス、道路整備、駐車場整備から始まり、歩道ネットワーク、トラム、BRT、都市高速道路などの検討を経て、最終的にメトロ(高架鉄道・地下鉄)などの整備が俎上に載ってきます。非常に高額の整備費用と資金確保プレッシャー、10数年にも亘る整備期間、大規模な運営組織の必要性、火災・事故対応の研究、など検討内容が多く、また、どの国においても「初めての都市地下トンネル建設」、「初めての5分間隔の鉄道運行」など、初めての事業が伴います。

パデコは2004~2010年にソフィアメトロ延伸事業GC(2.8km、ブルガリア初のTBM導入)、2012~14年のジャカルタMCSプロジェクト(メトロ公社であるMRTJ社新規設立業務)、2014年~2019年のジャカルタメトロ1号線整備事業GC(14km、インドネシア最初の地下鉄整備)、2015年から継続しているムンバイメトロ3号線(全線地下33.5km、27駅、ムンバイで最初の地下鉄道)、2012年から継続しているブカレスト空港アクセス線事業GC(全線地下、14km、12駅、最初の外国資金を用いたメトロ建設)、2023年開始のデリーメトロ第4期GC(優先路線3路線)など、このモビリティの「ラスボス」退治に取り組んでいます。


ブカレスト空港アクセス線事業(メトロ6号線建設現場、Tokyo駅構内、2機目のTBM発進、2025年5月)

広域物流におけるパデコのイニシアティブ

インフラという言葉を聞くと、道路や建物など目に見えるものを思い浮かべるかもしれません。しかし、それらの「ハードインフラ」は、ユーザーが効果的に活用できるための、ルール作りや運営能力がなければ、単なる立派な建物や道路にすぎません。パデコでは、このような「ソフトインフラ」と呼ばれる分野で、長年にわたり途上国への支援を実施してきました。特に、アジアやアフリカにおける、広域貿易・物流計画の分野では、調査フェーズから新規インフラ導入のフェーズまで、目に見えないソフトな分野における組織運営・法的整備に関するコンサルティングを実施し、実際に対象国の貿易や物流を動かす政府関係者のキャパビル支援を進めています。

通関簡素化の必要性

われわれ島国生まれの日本人にとって国境というものは目に見えにくい、あまり縁がないものですが、世の中の多くの国は陸上国境を通じて資源や物資のやり取り(輸出入)をしています。輸出入は、国家エコノミー間の過不足を交換し合うことで、経済効率を高め、生活を豊かにするものと考えますが、実際の国境通過時には、検疫、関税徴収、運転手の国境通過、荷物の載せ替えなど、手間のかかる手続きが伴います。これを50年掛けて粘り強く簡素化に取り組んだのがEU社会であり、段階的に国境における荷物の載せ替えや関税徴収の簡素化をすすめ、最終的には「国境での手続きを無くす」という状態にまで昇華させました。

下記にSDGs9.1、9.aを参照しますが、SDGs目標を達成するためには、越境インフラ、国境手続きの改善が重要であることが分かります。

SDGs9.1 全ての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために、地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発する。 SDGs9.a アフリカ諸国、後発開発途上国、内陸開発途上国及び小島嶼開発途上国への金融・テクノロジー・技術の支援強化を通じて、開発途上国における持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラ開発を促進する。

2600人の現地有識者と協働した、南部アフリカでのOSBP運営能力強化

これがアジア、アフリカで出来るのか。現場を見ている私たちにとっても難しいことだと思いますが、着実に成果は上がっています。

例えば、東部アフリカ・南部アフリカでは、2000年代からワンストップボーダーポスト(OSBP)の導入が進められており、日本政府も長年支援を続けてきました。OSBPとは、国境を越境する際に、従来両国それぞれでやっていた通関や出入国手続きを、一つまたは片側の国境施設に統合し、人やモノの移動を効率化するための取り組みです。

パデコでは、2006年からアフリカの経済回廊調査を数多く実施し、それらの実績から2015年からOSBPソースブックの作成/改訂をリードしてきました。そして2022年には、「第3版OSBP ソースブック」がAUDA-NEPADおよびJICAからローンチされました。

加えて、OSBPの導入および運営に係る能力強化支援を長年実施しており、対象国境における両国間共通で利用できるOSBP手続きマニュアルの作成/改訂、二国間国境運営委員会のファシリテーション、さらには国境職員や近隣住民などの関係者に対する研修・セミナーなどを実施しています。これらの取り組みを通じて、より円滑な国境手続きに向けて、税関手続きの改善や、省庁間の連携強化のため政策やイニチアチブを各国政府が進めています。特に、2025年に終了した南部アフリカOSBP能力強化案件では、延べ2,600人を超える関係者への研修・セミナーを開催し、中でもザンビアでは、プロジェクト対象国境における貨物通関時間が、2022年から2024年にかけて60%以上短縮されたと報告されています。

OSBPは、隣国の政府職員と肩を並べて業務をする場所であり、簡単なようでとても難しい取り組みです。アフリカでは、国境は植民地時代に引かれたものであり、そもそも国境地域の住民たちは両国とも同じ民族に属していることも多く、共通語(英語またはフランス語など)を話すことから、「共にOSBPを運営していこう」という意識づくりがうまくできる土壌であると言えます。 一方、アジア地域では、歴史的背景や文化や言語の違いから、OSBPのような統合型の国境管理を導入するには、高いハードルがある国も少なくありません。パデコでは、各地域の特性を深く理解し、現地の人々と協議を重ねながら、その地域に適したソフトインフラの在り方を模索し、持続可能なソリューションの提供に向けた支援を進めていきます。

 



①カズングラOSBPでの通関所要時間調査



②国境近隣住民向けワークショップ風景


③南部アフリカ政府職員向けOSBP研修

インド・ムンバイで生きる、活かされる

パデコは、2011年頃からムンバイの都市交通セクターへの関与を始め、2016年に現地法人であるパデコ・インディアをムンバイで開設して、その後は交通インフラ整備の詳細設計、施工監理業務に参画しています。大きな案件としては以下の3つが挙がります。

Mumbai Trans Harbor Link(MTHL、Atal Setu)

ムンバイの半島部(島嶼部)と対岸の新市街(Navi Mumbai)や港湾地区を接続する、全長22km、6車線、全線高架の海上道路の計画に携わり、また、円借款資金を活用した事業形成、調達支援、2018年から2023年までの全期間に亘る施工管理をリードしました。2024年1月に無事開通し、ムンバイ都市圏の主要幹線道路として機能しています。ムンバイは稠密な沿岸都市であり、新規幹線道路を整備する土地がすくないため、沿岸・海上道路のネットワークを形成することで都市モビリティを確保しています。この辺りは、1964年のオリンピック開催を控えた頃の、東京の河川空間を用いた道路整備に似ていますね。 また、MTHLはムンバイ都市圏の外郭環状道路の一部として位置づけられており、南東部の港湾地区(JNPT港~インド最大のコンテナ港)、西側の沿岸都市を縦貫する高速道路群(Coastal Road、BWSL、VBSL、VVSL/UVSL)との接続でますますその真価を発揮することになると考えています。 この事業の経緯は、2024年4月号の土木学会誌で報告しました。


MTHL、ムンバイ側からの全景(写真提供:IHI、2023年)

Mumbai Metro Line 3(MML3、Aqua line、ムンバイメトロ3号線)

ムンバイの北部の巨大住宅団地(Aarey)・産業地区(MIDC)から、ムンバイ国際空港と新幹線予定駅に接続し、 、インド株式市場のある副都心BKC地区を通過し、主要鉄道ターミナル3駅(Central、CSMT、Church Gate)に接続し、更に歴史地区である半島の先っぽまで走りきる、全長32.5km、27駅、全線地下という、世界的にも最大規模の地下鉄整備事業です。パデコは、2013年に基本設計を実施し、2015年以降は総合コンサルタント(設計から調達管理、施工監理まで全般的に担当)の立場で従事し、日本人含め約100名の監理要員を送り込みました。2024年9月に北部区間(BKC~Aarey)が開通し、2025年10月9日に全線開通となりました。 ムンバイは都市鉄道(インド国鉄により運行されている郊外鉄道)が非常に普及している都市ですが、大変混雑しています。MML3は既往鉄道をバイパスする一方で、新しい都市機能(空港、新幹線駅、副都心であるBKC地区など)を有機的に接続します。MML3の他、2号線、7号線が一部開通しており、今後のムンバイでは、メトロネットワークを核としたモビリティがますます充実するものと見ています。


開通直後のBKC駅構内(2024年9月)

ムンバイ~アーメダバード間 高速鉄道(Mumbai-Ahmedbad High Speed Rail, MAHSR)

インドの金融首都ムンバイ、商都アーメダバドを接続する全長約500kmの新幹線整備です。日本国内では、「インド新幹線」とも呼ばれています。1964年に開通した、東京~新大阪間の東海道新幹線(510km)に類似する規模です。日本、インドで協力した事業計画が進められ、詳細設計などはほぼ日本側で実施されました。施工段階に入り、土木部分整備はインド主体、鉄道システム整備は日本主体で進められています。パデコは土木部分のPMC(事業監理コンサルタント)として、インド企業のTata Consulting Engineerらとともに参画しています。 パデコが主に従事するのは鉄橋部分の施工管理で、全線500kmのなかに29地点の鉄橋があります。インドはコンクリート橋(PC橋)を作るのはとても得意ですが、鉄橋整備経験が乏しく、パデコからのエキスパートがこれをサポートしています。



GAD28番橋梁~60mスパン、アーメダバドから約80km南西、Vadodara駅近辺の橋梁(2024年10月)


ムンバイでのプロジェクトは、この3つに留まりません。2016年の設立以来、交通インフラ整備業務を中心に、森林保全、都市開発、医療機関新設などのプロジェクトに現在進行形で携わっています。パデコ・インド支店、パデコ・インディアはムンバイをベースとして成長していくVisionを描いています。